これは素晴らしい本です。
私自身、某駅弁大学の理工学部卒業なんて生意気を言っておりますが、
カリキュラムに電気・電子、物理、数学なんてぇのが山ほどありまし
たが、その範囲は古典。古典も古典、ギリシャ時代まで遡るくらい
しか勉強しておらず、この本の題名にあるアインシュタイン博士の
かの有名な相対性理論ですとか、量子力学とか、場の理論なぞは全く
のちんぷんかんぷんであります。
大学卒業後、こりゃいかん、たまには勉強せねばと時折その手の書物
を買っては頁をぱらぱら、何せ古典力学も満足に咀嚼していない輩、
それこそこてんこてんにやっつけられて涙とともに本が枕代わりに
なっておりました。
それからん十年、本屋さんでこの不思議な題名の本を見つけて最初の
1頁を読んだ瞬間、おお、すらりと入っていける!何と電車の往き帰り
を使って三日間で完読してしまいました。
表紙の挿絵が可愛いでしょう。全編、この女性とアインシュタイン
博士との対話となっています。但し、アインシュタイン博士はこの
小説の中では当然ながら死後の世界におります。女性は現世の方の
ようでありますが、それこそ博士の言う相対性理論の中の別の世界
の方かも知れません。
実は、この本を買った理由が他にあったんです。それは作者の名前。
ジャン・クロード・カリエール
えっ、ご存じない?それでは、映画の「昼顔」「存在の耐えられない
軽さ」「ブリキの太鼓」、舞台の「テンペスト」と並べたら「えっ」
と驚かれる方も多いのではないかしら。
そうなんです、上記の脚本を書いた方なんです。
訳者の南条郁子さんの名訳によるところが大きいと思いますが、
ストーリー展開と描写がまるで映画かTVのドラマを観ているよう。
あの難解な相対性理論やら特殊相対性理論がさりげなく展開され、
なんとなく理解出来てしまう。そうなんです、なんとなくと言うの
がいいんです。兎も角、分かった積りになること、これが学問では
大事なんですよね(笑)語学でもなんでも。入り口が見つからないと
前に進みませんものね。
ということで、私はこの一冊を読んでアインシュタインの考え方
が分かった積りになっています(でも、これから先には多分行かない
でしょうね、笑)。
そして、相対性理論の基になっている「光」に関する考察。この
くだりを読んだ時に、実はびっくりしました。作者、 ジャン・クロ
ード・カリエール はこの本の前に「ダライ・ラマ」に関する本も
書いています。多分に東洋哲学的な表現がちりばめられているの
です。
実は前にご紹介した柳澤桂子さんの「いのちのことば」と共通する
世界観がこの小説にあったのです。柳澤さんも世界を代表する
科学者です。彼女の般若心経の心訳というのは、実はこの相対性
理論がキーになって読み解いたのではと思った次第です。
まぁ、難しい話はさて置いて、アインシュタイン博士や相対性理論
にご興味の方は是非手にとって見てください。特に、博士と古典力学
の父であるニュートンとの会話は秀逸です。
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